心臓を失っても生きられてしまうから
2024年1月8日19時、これを読んでくれるあなたは何をしていましたか?
わたしは全裸でした。
お風呂に入っていたのです。
Xで最悪で端的な文字列を目にした瞬間にメールフォルダをチェックしました。
その約20分間は地獄のような時間だった。
このまま浸かっていたら溺れ死ぬと直感的にわかって浴室を出てフォロワーさんのスペース(※X内のトーク機能)に入りました。
「わかんない」「無理」「なんで」
みんなそれしか言えなかった。
いつも大事なことは、どこよりも早く自分たちの口で伝えてくれる大好きな彼らの言っていることが一ミリもわからなかった。
中島健人がSexyZoneを辞める。
公式では「卒業」という言葉を使っていた。
SexyZoneのエースで最年長でケンティーな彼が4月1日でグループを離れる。
理由はわからなかった。
直接的な説明が無かったから。
きっとこれからの仕事の都合、契約上の理由、その他ありとあらゆる事情で言えないのだろうけれど。
それでもわたしは、ファンという生き物は、我儘なものだから「理由」が欲しかった。
「理由」がわかればすぐには飲み込めなくても噛み砕いて消化していつか腑に落ちる日が来ると知っているから。
でも何度彼の綴ったブログを読んでも理由はわからなかった。
「国内外問わず自分が目指す場所に向かって様々な挑戦をこの事務所でしていきたい」
それって本当にSexyZoneのままでは出来ないこと?
事務所を出て海外に拠点を移す、だったら理解できた。
あるいはアイドルではなく俳優一本でチャレンジしたい、というなら寂しいし残念だけれど納得できた。
でも彼の選んだ道は事務所に残りアイドルも続けるというものだった。
それならSexyZoneのままでもいいじゃん。
そうとしか言えない。わからなかった。
売れたいって言ってたじゃん。国立に立ちたいって言ってたじゃん。また紅白に出たいって言ってたじゃん。福岡でモツ食べてないじゃん。
まだ誰にも言ってない夢、心にあるじゃん。
めざましで語る姿に、ぽかぽかで喋り観覧のファンに手を振る姿に意味を見出そうとしたけどやっぱりわからない。
あなたの思い描く未来にメンバーがいなかったことが悲しい。
SexyZoneというアイドルを人の形に当てはめるなら中島健人は心臓だと思う。
菊池風磨は脳で、佐藤勝利は顔で、松島聡は手で、マリウス葉は足だと思う。
医療技術は進歩したから、アイドルは多様化したから、心臓を失っても生きることができるようになってしまった。
そのことが悲しい。
オフィシャルには「卒業」と表現しているこの状況で彼のシンメは「脱退」と記した意味をまだ考えている。
セクシーとはヘルシーである
セクシーとはヘルシーである。
2022年7月6日、日頃埃を被っているテレビをただなんとなく付けた。観たい番組があったわけでもない。強いて言えばちょっと音が欲しいな、ぐらいの理由だった。
やっていたのは自衛隊の特番だった。
『超絶限界 〜陸上・海上・航空自衛隊ソコまで見せる!?大百科〜』である。
ツイッターをスクロールさせつつぼんやり観ていたわたしは気が付かなかった。天地がひっくり返る瞬間がひたひたと迫ってきていることに。
「菊池って人」呼ばわりである。
唇が印象的なタレ目のお兄さんは面白かった。
取材に固くなっている自衛隊の人たちの懐にあっさり潜り込むとスルスルと欲しい言葉を引き出していく。
こういう場所では下ネタが強い。キャノンというTACネームの意図を理解しすぐに自身をマグナムと名付ける機転の効かせ方も心地良かった。
お兄さんはF-15に乗り込んだ。
そしてわたしはお兄さんがアイドルであることを知った。
とてつもないスピードと体に掛かるG、揺れる機体にお兄さんの顔色はみるみるうちに悪くなっていく。
操縦席のキャノンは決して無理強いはしなかった。ここで止めるのもアリだと声を掛ける。
しかしお兄さんは頑としてその言葉に頷かなかった。
見るからにしんどそうなのに「やります」、「いけます」と返す。
自分のしんどさよりもバラエティとしての面白さ、役目をやり遂げることを優先したのだ。
なんだこの人、と思った。アイドルとしてのプライドも食らいついていく根性も生半可なものじゃない。
気がつけばテレビに釘付けになっていた。
飛行訓練を終えて戻ってくる姿はとても格好良くて、片手に抱えるヘルメットにはSexyZoneのロゴが輝いていた。
ひと通り観てツイッターに戻ってくると件のわたしのツイートはジャニオタ(※SexyZoneのファンはSexyLover、略してセクラバと言います)たちに捕捉されていた。
どうやらお兄さんは菊池風磨さんというらしい。
早速YouTubeで探すと新曲のMVが上がっていたので聴くと『Forever Gold』はイメージの斜め上を行くものだった。
一応SexyZoneは知っている。セクシーゾーンって地球はいつでも回ってるグループだよね??? あのバラ散らしてる感じの。
でも新曲からはその雰囲気は欠片も無くてレトロでお洒落な、端的に言うとかなり好みだった。
この時点でかなり前向きにSexyZoneのことが気になり出したところ、フォロワーから『桃色の絶対領域』を聴いてくださいとURLが届く。
気だるげでジャジーなメロディに色気たっぷりな歌声。めちゃくちゃ良いじゃん、カッコいい。
感想をツイートすると次々に反応が飛んでくる。ジャニオタの団結力はすごかった。総選挙でのダイマ合戦に慣れているデレマスのオタクですらちょっと引くぐらいにすごかった。
そんな中、アマプラで『RIDE ON TIME』というドキュメンタリーを見てほしいというファンの人からのリプライが来た。
もう興味しかなかった。
そして再び菊池風磨にやられるのである。
「10周年でまだ何も残せてない、デビュー曲を超える曲がありましたかとファン以外の子に聞いた時に何曲上がるのかなあ」
ガツンと殴られた気がした。
だってほんの2時間前のわたしは言ってたのだ。
「セクシーゾーンって地球はいつでも回ってるグループだよね??? あのバラ散らしてる感じの」と。
菊池さんはちゃんと気付いていたのだ。わたしみたいな層が彼らに呪いをかけてたことに。
何も知らなかった。
メンバーの名前も何人グループなのかも、デビュー曲以外の曲も。
おかしいことではない、罪悪感も違う。
ただそれってすごく残酷だよなあと思った。
小学生〜高校生の子どもたちでデビューして、きっと華やかな道を歩んで来たのだと想像していた。
そんなことはなかった。向かい風の吹き荒ぶ中を駆けていた。どこまでもシビアなアイドルだった。
ドキュメンタリーの中で何度もクローズアップされていた曲がある。
「終わらないだろう 終われないだろう 僕らはまだ何も残せてない」
『RUN』
うわあ。うわあとしか出てこなかった。
もう夢中でRIDE ON TIMEを観た。
深夜に見始めて少しだけ寝て起きて続きを見て、気がつけば朝7時だった。
彼らのステージが見たい。そう思った。
昨晩から通知欄はセクラバに占拠されていたのだがそれによりちょうど今ツアー中だと知った。なんなら今日、7月7日も公演をやっている。場所は名古屋。本日のこちらのスケジュールは空。在来線は無理があっても新幹線を使ったら?
まさかね、と思いつつツイートをする。
4時間後。
わたしは新幹線に乗っていた。
地球はとっくに回っていた。
人生初のジャニーズ。
右も左もわからない人間にセクラバさんたちはみんな優しかった。
同行してくれた方は菊池さんのうちわを貸してくれた。これが噂のジャニーズのうちわ。思っていたよりも大きい。推しが大きいのはいいことだ。
ペンライトを貸してくれた方もいた。
この方は終演後に返しに行った時に銀テープまで分けてくれた。
銀テ=奪い合いの図式が崩れた瞬間である。
こうして右手にペンライト、左手にうちわの完全装備でライブに臨むことになった。
薄暗い会場では80年代〜90年代の映画音楽を中心とした洋楽がかかっていて否応なくテンションが上がる。これも菊池さんのセレクトらしい。というか今回のツアーの構成は彼がメインで考えたものだそうだ。どこにでも現れるぜ菊池さん。
ライブの中身はまだツアー期間中なので差し控えるけれどすごかった。
ぼんやりとした頭のままサイトを開きファンクラブへの会員登録を済ませ、そしてセクラバが爆誕した。
(一部からは七夕のシンデレラと呼ばれる事態となった。)
ここまで来るとオタクは誰にも止められない。
翌日には最新のアルバム『ザ・ハイライト』とおすすめされたライブBlu-ray『repainting』を買いにタワレコまで走った。
しかし我が家には再生機器がない。
そこでその次の日にはBlu-rayプレイヤーを買っている。お風呂で観られるやつ。
躊躇なんてなかった。とにかく事態は一刻を争う。セクシーを補給しなければ。
最高……!
市内のCDショップの品揃えはほぼ把握した。
店頭に無くてネットで注文したアルバムは次に店に訪れた時には並べられていた。
公式YouTubeの『ぎゅっと』の100万回再生に立ち会った。
アサヒの生ビール缶は美味い。
楽譜も読めないのにみんなのうたのテキストを買った。
ラジオも毎週聴いている。
CDや雑誌は発売前の予約が大事。
日々をSexyZoneが侵食している。
ここまで来ると段々と思考も変わってきて、マインドもセクシーに寄ってきた。
本屋まで二駅歩くのはセクシーだから歩く。
コンビニでなんとなくスナック菓子を買うのはセクシーじゃないからやめておく。
好きな服を躊躇せずに着るのはセクシー。
ここで少しだけわたしの話になる。
家庭環境が劣悪だった。
一人暮らしを始めてから強烈なフラッシュバックに襲われてまともに動けないところを当時の教授に保護されて病院に通うようになった。
大学を卒業するだけで7年かかった。就活すらまともにできない。
社会人として働く友人たちと比べて情けなくて堪らなかった。
焦っても減らない大量の薬。碌に外に出られない体。
それが変わり始めている。
明るい時間に外に出られるようになった。
どうしても抑えられなかった過食が止んだ。
共通の話題でいろんな人と交流するようになった。
笑って泣いて照れてはしゃいで、セクシーたちにカチコチになっていた感情を揺さぶられている。
もしかしたらわたしも普通の日々に戻れるのかもしれない。
枯れても咲けるのかもしれない。
そう思ったきっかけは松島聡さんだ。
彼の過去、頑張りのほんの一片を情報として知った。
彼はわたしの入った公演で自身を「普通のアイドル」と言った。「なにか突出したものがあるわけではない」と。
そんなわけあるか!
一度ゼロになった彼がもう一度走り出したこと、彼が今キラキラしていること。その事実にどれだけ救われたか。
聡ちゃんはわたしの希望だ。
希望をくれるアイドルだ。
あなたの背中は本当に眩しい。
松島聡は「特別なアイドル」です。
そして彼が戻ってこられたSexyZoneという居場所に、わたしもわたしにとってのそんな居場所にいつか出会えたらと思う。
たった3日間で人生は変わるのかという番組をSexyZoneでやったことがあるらしい。
どうやら人生を変えるには18時間もあれば十分なようだ。
明日起きたら何をしよう。
まずはドリボの一般を戦って、それから部屋の片付けかな。
セクシーはヘルシーだ。